どこでもない場所を目指して

海辺のカフカ (上) (新潮文庫)海辺のカフカ (下) (新潮文庫)
プラハに五日間滞在したことがあります。三日間の予定だったのですが、きれいな街並みが気に入って、滞在を延長しました。ガイドブックに載っているような場所をあらかた回って、やることもなくなって、ある広場で建物をスケッチしてました。そのとき、少年が寄ってきて私の手元をのぞいていました。大体書き終わると少年は「グートグート」(ドイツ人だったかしらん?)を言って、さくらんぼをくれました。そのやりとりをみていた少年の両親とおぼしきカップルは私を胡散臭そうに眺めていました。私は絵心があるわけでもなく、そのときのスケッチもヘタクソなものだったので、それをお返しにあげる気にはなりませんでした。今考えるとあげとけばよかったかな、とも思います。この本の題名を見て、そんなことを思い出しました。カフカの生家はプラハにあります。

私が読んだ村上作品に比べると、この本はそれらとは趣が異なるように感じます。社会性を帯びているというか、何らかの方向性があるように思います。学生時代、好んで村上作品を読んでいたのですが、それは、作品に共通しているように思えた堂々巡りみたいな、なにかグジグジしたものがそのころの私の心性に語りかけるものがあったからです。といっても、相変わらずメタファーが満載で、いくらでも解釈の方法があるわけですが。日本の作家でもっともノーベル賞に近い作家である気がします。
 
余談ですが、知り合いの知り合いが村上氏の別荘に携わったことがあるらしいのですが、彼の奥さんの注文がとにかく口やかましかったということです。恐妻家かもしれませんね。